あなたの研究テーマについて教えてください。What is your research theme?

人間が誤情報やフェイクニュースにどのように向き合うか、その判断や行動のメカニズムを、脳科学と数理モデルを用いて解明することです。
具体的には、人々が誤った情報を受け取った際に、それが正しいか間違っているかをどう判断するのか、またその情報を他者にシェアするかどうかといった行動を、数式で書かれた「数理モデル」で表現します。パラメーターの違いから行動の個人差が生まれてくるようなモデルを構築したのちに、そのパラメーターが心理的特徴や脳活動・脳構造、生活様式など、どの個人特性と強く関連しているかを調べることを目指しています。
この研究は、心理学や神経科学、情報科学など複数の分野にまたがる学際的な領域に位置付けられます。特に、人間がもっぱら経済的合理性のみに基づいて行動するという「合理的経済人」の枠組みでは説明し切れないような、非合理的に見える人間の行動(例:パニックによる買い占め)を定量的に分析し、その根本にある脳や心の働きを科学的に明らかにすることに重点を置いています。
なぜ博士課程へ進学しましたか?Why did you decide to pursue a doctoral program?

より専門的な知識を習得し、日本の政策立案や行政運営に科学的な視点を取り入れるための専門家になるという強い思いから、博士課程への進学を決意しました。
学部時代は公共政策を学び、実際に自治体に対するコンサルティング業務も経験しました。その中でコロナ禍のような緊急事態下で起こる人々の混乱や、デマの拡散といった問題に直面し、より科学に基づいたアプローチが必要だと感じました。
博士前期課程では、脳科学や数理モデルという新しい分野に飛び込み、研究を進める中で、2年間という期間では専門性を十分に磨くには短すぎると実感しました。また、自身の研究テーマが学際的で広範囲にわたるため、じっくりと取り組むには博士後期課程への進学が必要だと判断しました。進学には迷いもありましたが、NAIST(奈良先端科学技術大学院大学)の留学生との交流を通じて、博士課程への挑戦をポジティブに捉える意識が芽生えたことも後押しとなりました。
Graniteの支援で役立っている・助かっていることを教えてください。Please share what has been helpful or beneficial through the support provided by Granite.
Graniteの支援は、金銭面と精神面の両方で博士課程での活動を大きく支えています。
資金面では、以前はためらっていた学外の学会やトレーニングコースへの参加が、より積極的にできるようになりました。これにより、最新の研究動向を学んだり、他の研究者や博士課程の学生とのネットワークを広げることができ、研究の幅を広げる上で非常に有益だと感じています。
精神面では、支援を受けることによって、単なる学生ではなく、一人の研究者としての自覚を持つことができるようになったと感じます。研究費の獲得という経験を通じて、自身の研究計画が客観的に評価されたことを実感し、主体的に情報収集を行うようになるなど、研究者としてのアイデンティティを確立する上で重要な機会になりました。
将来の目標、もしくはあなたが胸に秘めた野望があればぜひ教えてください。Please share your future goals or any ambitions you hold close to your heart.
日本に「行動科学チーム」のような組織を立ち上げ、科学的知見に基づいた政策立案や行政運営を推進することです。
現在は主に経済学の視点からエビデンスに基づいた政策(EBPM)が進められていますが、人々の非合理的な側面を考慮した政策には、心理学や神経科学など、人間の個人差に焦点を当てる行動科学の視点が不可欠だと考えています。
海外では、すでに政府内に専門家で構成された「行動科学チーム」が設置され、政策立案に貢献している事例があります。この分野が日本ではまだ発展途上であると認識しており、自身がその先駆者となり、人々の行動変容を促す「ナッジ」のような手法を政策に取り入れるなど、社会に貢献できる人材になることを目指しています。
博士課程進学を考えている人へのメッセージをください。Please share a message for those considering pursuing a doctoral program.

博士課程への進学は、私のように専門分野を大きく変えて挑戦する人にとっては、特に大きな決断だと思います。でも、だからこそ、今の専門性だけで諦めないでほしいと伝えたいです。
研究は、これまで自分が積み上げてきた別の分野の専門性が、意外な形で役に立つことがあります。私自身、公共政策という文系分野での経験が、今の研究への強いモチベーションになっています。
博士課程は、一見リスクのある道に見えるかもしれませんが、海外に目を向ければ、挑戦すること自体が非常にポジティブに評価されています。
もし少しでも進学に迷っているなら、思い切って行動してみてください。たとえば、興味のある研究室の先生や、すでに進学している先輩に話を聞いてみるのもいいでしょう。たとえ思うような結果が得られなくても、その経験が必ず次のステップにつながります。失敗を恐れずに、目の前にあるチャンスをどんどん掴んでいく姿勢が、何よりも大切だと思います。

