博士学生キャリアパス

博士課程修了後のキャリアパスって?

博士課程修了後のキャリアパスは変化している

近年、博士課程修了後のキャリアパスは多様化しています。かつては、大学や研究機関に残り、アカデミアで研究を続けることが一般的な選択肢でした。しかし、大学ポストの数が限られていること、若手研究者のアカデミックポストが任期付きであることなども影響し、企業や公的機関、スタートアップなど、さまざまな選択肢を視野に入れる博士学生が増えています。

また、産業界でも博士人材の価値が再発見されつつあります。特に、研究開発、データサイエンス、AI関連といった領域では、博士レベルの専門知識を持つ人材が求められています。また、大学における研究を基点としたスタートアップも年々増加しており、従来のアカデミア中心のキャリアモデルから、産業界や起業といった新たな道が広がっているのが現状です。

実際に、本学の博士後期課程学生の進路を見てみると、過半数が民間企業に就職しています。アカデミアに留まらず、国内外の大学(高専を含む)、公的研究機関、民間企業等の多様なセクションで活躍していることがわかります(図1)。

図1 H27~R5における本学博士後期課程修了者(就職者)の就職状況

どんな選択肢がある?

では、博士課程修了後のキャリアには、どんな選択肢があるのでしょうか。下記にいくつか博士人材と相性のよい進路を挙げて解説します。

1. アカデミア

ポスドク(博士研究員)として研究を続け、その後、助教、准教授、教授とキャリアを積む道です。独立した研究者としての裁量が大きく、自身の関心に基づきテーマ選択がしやすいという自由度が魅力です。ただし、ポストの競争が激しく、安定した職に就くまでに時間がかかることが課題です。就職活動においては、ポストごとの公募か、人づての紹介を経るケースが多いです。

2. 企業研究職

製薬、化学、エレクトロニクス、ITなどの企業で研究開発に従事する道です。特に、研究開発を重視する企業では、博士の専門性が活かせる環境が整っています。アカデミアの研究職との違いは、社会のニーズに応え利益につなげるという目的があることです。研究成果を具体的に社会の役に立てたいという意識が強い方にはやりがいを感じられる傾向がある一方、テーマの自由度はアカデミアの方が高いことが多いです。企業によっては、アカデミアと連携しながら研究を進める機会もあります。

3. コンサルティング・シンクタンク

専門知識を活かし、企業や政府機関向けにコンサルティングを行う仕事です。データ分析や戦略立案を行うシンクタンクも博士人材を積極的に採用しています。

4. 公的機関・行政

政府系の研究機関や政策立案に関わる機関で働く道もあります。科学技術政策や社会課題の解決に関わる仕事は、博士の知識を活かせる場面が多いです。2024年には文部科学省「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」の中で、文部科学省を中心として各省庁での修士・博士の採用促進や学位取得支援を促進する方針が示されています。

関連:「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」について:文部科学省 2025年2月21日閲覧

5. 起業

博士課程で行った研究の成果や培った専門知識をもとに、自ら起業する選択肢もあります。2022年の「スタートアップ育成5か年計画」をはじめ、国を挙げて起業を支援する制度も整いつつあり、研究成果を社会実装する機会が広がっています。

関連:スタートアップ育成ポータルサイト:内閣官房 2025年2月21日閲覧

6. 特許関連

特許事務所や企業の知的財産部門では、博士の専門知識を活かし、発明の特許化や技術戦略の立案に携わることができます。技術の理解力と論理的思考力が求められる分野であり、理系博士にとって魅力的な選択肢の一つです。

7. その他の専門外就職

上記のような専門性の高い職種以外にも、幅広い業界・職種に就職・転職するケースもあります。博士課程で培った論理的思考力やデータ分析力、問題解決能力は、さまざまな分野に応用可能です。

専門外就職について

専門外就職とは、博士課程での研究分野とは異なる業界・職種へ進むキャリアのことです。たとえば、文系博士がIT企業でデータアナリストとして働いたり、理系博士が金融機関でリスク管理の業務に携わるケースがあります。

この選択肢は、従来の「専門分野を活かす」という考え方とは異なりますが、博士課程における研究経験で培ったスキルは多くの業界で活かせます。たとえば、

  • 論理的思考力:複雑な問題を整理し、解決策を考える力
  • データ分析力:実験や研究で得たデータを解析する能力
  • プロジェクト管理力:長期的な研究を遂行する能力
  • プレゼンテーション能力:研究成果を発表し、相手に伝えるスキル

企業はこれらのスキルを評価し、柔軟な思考ができる博士人材を求める傾向にあります。一方で、実際には博士人材一人ひとり扱ってきた研究テーマも違えば、注力してきた活動も異なります。それに由来する個々人の個性や、強み・弱みのバリエーションも博士人材の魅力の一つだと言えます。専門外就職を考える場合、自分が特にどのようなスキルや能力に長けていて、それが具体的にどんな経験に紐づいているのかを分析することが重要です。そして、それが希望するキャリアにどのようにマッチするのかを整理した上で、適切にセルフプロデュースを行いましょう。

まとめ

博士課程修了後のキャリアパスは、アカデミアだけでなく、産業界にも広がり、多様化しつつあります。自身の強みや仕事において実現したいことを理解し、広い視野かつ長い目でキャリアを考えることで、納得のいくファーストキャリアを開拓していきましょう!