博士のキャリアとライフイベントを考える
博士のキャリアとライフプラン

博士課程を経た後のキャリアパスは多岐にわたります。大学や研究機関でのアカデミックポストだけでなく、企業の研究職やコンサルティング、政策立案など、さまざまな選択肢があります。しかし、キャリアを築く過程でライフイベントも重要な要素となります。特に、博士課程学生は修了後の年齢が20代後半~30代となることが多く、結婚、出産、育児など、ライフステージの変化を意識する機会も増えていきます。アカデミックポストを目指す場合は特に、そういった時期が任期付きポストである割合が高く、キャリア形成が長期戦になりやすい傾向にあります。そこで、本コラムでは、ライフプランとの両立にあたって考えておくべきことを紹介します。
両立における課題

まず、ライフステージの変化(ここでは主に結婚・出産・育児を対象とします)が起こる際の博士キャリアのお悩みとしてよく挙げられる3つの点を挙げます。
任期
博士課程修了後すぐのアカデミックポストは任期付きであることが多く、収入が不安定であるというお悩みがあります。「結婚は立場が安定してから……」と考えているとなかなかタイミングが掴めないことも。
居住地
パートナーとともにアカデミックポストに就く場合、居住地を合わせるのが難しいという話はよく挙げられます。アカデミアの就職活動では、全国の大学や研究機関から出ている公募を探し、場所を限定せずに応募していくケースも多いため、研究者同士の夫婦が同じ地域に同じタイミングで職を見つけるのは難しい場合もあります。
育児
アカデミアかそれ以外かに関わらず、博士課程修了後のキャリアにフルタイムワークを選ばれる方は多いと思います。研究職は時間が自由になりやすい傾向にあるものの、ハードワークな職場でもあるため、子どもが生まれた場合に誰がいつ育児休業を取るのか、家事育児の協力体制はどうするのか、などが悩みになる場合があります。
両立のためにできること

前述のような問題を乗り越えるために大切だと考えられる要素をいくつか挙げていきます。
キャリアプランの柔軟さ
理想の進路に向かって一直線に邁進することも大切ですが、人生には計画通りに行かないイベントもたくさんあるため、それに合わせて柔軟にキャリアプランを変化させていくことも、両立の上では重要になると思います。例えば、アカデミアと企業のどちらも視野に入れておく、パートナーか自分のどちらかが一時的に仕事から離れる選択肢も考える、あるいはキャリアを維持することを優先するために別居しながら子育てをするプランを考える、など、常にいくつかの可能性を考えておくことにより、刻々変わる自分の状況に合ったキャリアを選択する助けになります。
働き方の柔軟さ
研究者は裁量労働制であることが多いため、パーマネントポストであったりある程度まとまった任期があるなら自分のライフプランに合わせて仕事へのリソース配分を一時的に抑えることが可能です。一方、企業でもフレックスやリモートワークなど柔軟な働き方ができる職場が増えています。また育児休業や時短勤務等の制度も整備されている場合が多いため、出産・育児を経て職場に復帰しやすい傾向にあります。
先を見据えた時間管理
働き方が柔軟であるからこそ、しっかりと計画を立てて仕事を進めなければ大きく効率を落としてしまうことになりかねません。細かいライフイベントやキャリアイベントを見越した上で、仕事を適切に管理する工夫が重要になります。大学院生は多くの場合、数年間というまとまった時間の中で研究に専念できる恵まれた環境で過ごしますが、就職しライフイベントと両立するとなると、マルチタスクを処理することが求められ、仕事の進め方はアカデミア・企業を問わず大きく変わります。
周囲の助力の確保
フルタイム共働きで子どもが小さい時期を乗り切るには、親族や外部サービスなど育児協力を仰ぐ算段をしておくことが必須です。計画的に情報収集や相談を行っておきましょう。
人的ネットワークの活用
似たキャリアパスを歩む仲間とのネットワークを維持しておくことで、柔軟なキャリア形成に必要な最新情報を手に入れられるのが理想です。新しい考え方を知れたり、具体的にキャリア開拓に繋がるコネクションを得ることは大切です。
パートナー、家族とのコミュニケーション
家庭がある場合には、自分一人ですべて意思決定できるわけではありません。日頃から家族と価値観のすり合わせや、コミュニケーションを行っておくことで、スムーズにキャリアプラン、ライフプランの判断ができるのが理想的です。自分で考えているだけだとまとまらない考えも、相手に話すことで整理できることがありますし、目指すライフプランの方向性が一致していれば、その時々の状況に合わせて自分かパートナーのどちらかが柔軟に動く、といった乗り越え方ができます。
使える制度を調べておこう

アカデミアでも、企業等であっても、ライフイベントと仕事の両立のために使える制度は充実していく傾向にあります。
アカデミアの場合
ポスドクであっても大学によって教職員としての各種制度が適用される場合があります。任期中の出産を検討している場合には、育児休業を取れるか、取った際にその分の任期が延長されるか等は、就職する前に人事担当者の方に確認してみましょう。たとえば、奈良先端大ではポスドクを含むすべての教職員を広く支援する体制が整っています。詳しくは男女共同参画室のWebサイトをご確認ください。
また、日本学術振興会では特別研究員(RPD)と呼ばれる区分で、出産・育児等を理由に研究を中断した研究者を対象として研究奨励金(給与に相当)および研究費を支給しています。2024年度の採用率は51.8%と、他の特別研究員区分に比べて採用されやすいことが特徴です。
企業の場合
任期の心配はないことが多いため、フレックスタイム、リモートワークといった柔軟な働き方ができるか、育児休業制度の内容や実際の社員の取得率、その後のキャリア例などがわかると理想です。最近は、男性の育児休業取得率なども、ワークライフバランスが取りやすい環境かどうかを知る一つの手がかりとして注目されています。
また、最近は、社会人博士として企業で働きながら博士号取得ができる支援制度を設ける企業も増えてきています。ライフプランとの兼ね合いで博士課程を単位取得退学される方の場合は、就職先にそういった支援制度があるかといったことも調べておくとよいと思います。
まとめ
博士課程修了者にとって、キャリアとライフイベントの両立は大きな課題ですが、計画性と柔軟性、そして支援制度等の情報をしっかり持っておくことで、安心して目指すキャリアに向かうことができると思います。計画通りに行かない場合にも、優先度の高いことは何かを意識しながら柔軟に意思決定を行いましょう。