あなたの研究テーマについて教えてください。What is your research theme?

活動の拠点をヨーロッパに置いてアーティストとして活動をしながら、インタラクティブメディア設計学研究室で、「アンメイキング」という新しい価値創造の仕組みを、あえて工学の枠組みで研究することに挑戦しています。
私たちの社会では、過剰なまでに物が作られ続けています。その背景には、個人が生計を立てるための経済的モチベーションがあると考えています。
こうした状況を工学的に解決する方法を模索し、環境負荷を抑えつつ新たな価値を生み出す可能性を探っています。
具体的な活動としては、今年の10月にスロベニアのマリボルという都市で開催された「国際コンピュータアートフェスティバル」に招待され、新作のインスタレーションを発表しました。
作品のテーマは「ポスト資本主義」で、日本のことわざからインスピレーションを得たインスタレーションです。
棚の上にエレベーターで餅を運び、棚から転がり落ちてくる餅を参加者がキャッチするという「棚からぼた餅」を体験する装置を作りましたが、この装置の85%以上の素材は会場である元カジノ建物の廃材を再利用しており、「作る」という行為そのものを問い直す作品となっています。
なぜ博士課程へ進学しましたか?Why did you decide to pursue a doctoral program?

アート活動やコンセプトをより深く発展させたいという思いがあり、当初はアート分野で博士課程を進めることも考えていましたが、それだけでは社会的な説得力が十分でないかもしれないという懸念がありました。それに加え、もともと難しいことに挑戦するのが好きなタイプなので、「工学のバックグラウンドがない自分が工学分野で博士課程に挑戦したらどうなるのか」という興味もありました。
指導教官の加藤博一先生とは9年前からずっとコンタクトを取り続けていて、私も年に数ヶ月は日本に戻ることがあり、実家が奈良ということもあって、その度にNAISTに足を運んでいました。
その際に加藤先生と「博士課程をやってみよう」という話が自然と進んでいきました。そこでGraniteプログラムについて教えていただき、進学のチャンスを具体的に見出すことができました。
正直、入試に関しては非常に心配もありましたが、無事にクリアすることができたのは、本当にありがたいことだと思っています。
Graniteの支援で役立っている・助かっていることを教えてください。Please share what has been helpful or beneficial through the support provided by Granite.
秋入学なのでまだ入ったばかりですが、自由度の高い研究費の提供が大きな助けになっています。
今度ドイツのハンブルクでCCC(カオス・コンピューティング・コングレス)というカンファレンスがあって、それは世界で最大級のハッカー会議の1つでもありますが、そこへの企画書が通ったのでGraniteの研究費で行かせてもらいます。
博士課程の研究の成果とは直結しないものでも柔軟な支援をいただけることは、ユニークな研究スタイルを持つ学生にとって非常に有益であると感じています。
将来の目標、もしくはあなたが胸に秘めた野望があればぜひ教えてください。Please share your future goals or any ambitions you hold close to your heart.
アカデミックポストは目指していなくて、将来は財団を設立して研究者もアーティストも支援を行えるようになりたいです。
これまで自身で様々な財団のビジネスモデルを調べたりインタビューなどをしてきたりしましたが、どのプロジェクトが支援されるかはファンドの方針や選定プロセスに影響を受けることが多く、国の違いでも大きく変わります。そういった制約に関わらず、研究者やアーティストが自由な研究や創作活動をサポートできる仕組みを作りたいと考えています。
そういった意味で、既存の助成制度の限界を克服するため、投資ベースに頼らずに持続可能な運営が可能な仕組みを持つ財団を設立することを目指しています。
博士課程進学を考えている人へのメッセージをください。Please share a message for those considering pursuing a doctoral program.
最近の日本の若い世代、特に私よりもさらに下の世代を見ていると、少し保守的になっている人が増えているように感じます。
たとえば、「海外留学をしたいけれど、1年間のギャップが履歴書にできてしまうことで将来に影響するのでは」と不安を感じる人もいると聞きます。私自身はそういったことをあまり気にしたことがありませんが、それでも今こうしてしっかりと生きて活動を続けられています。
だからこそ、自分が本当に面白いと思うことに素直に向き合うことが一番だということを伝えたいです。
結局、自分がやりたいことをやるのが一番楽で、結果的に最も頑張れるはずです。
もし博士課程に進むことが本当にやりたいことなら、迷わず挑戦すればいいと思います。
ただし、無理に進む必要はありません。やりたくないのに、「博士課程に進むためだけに」努力をするのは、あまり良い選択ではないと思います。
自分の心に正直になって、自分が本当に興味を持つ道を選ぶことが、結果的に一番良い選択になるのではないでしょうか。