あなたの研究テーマについて教えてください。What is your research theme?

私の研究テーマは、超分子自己組織におけるフォトクロミズムの増幅です。フォトクロミズムとは、光を当てることで分子の構造が変化し、それに伴って色が可逆的に変わる現象のことを指します。この現象を示す分子は「フォトクロミック分子」と呼ばれます。
一部のフォトクロミック分子は、光照射だけでなく、微量のX線を照射したり酸触媒を加えたりすることで、フォトクロミズムがより強く現れる(=増幅される)ことが知られています。私の研究では、この増幅効果に着目しています。
このフォトクロミズムの増幅は、将来的にX線センサーや**太陽熱エネルギー貯蔵システム(MOST)といった応用につながる可能性があり、エネルギーやセンサー技術への展開が期待されています。
なぜ博士課程へ進学しましたか?Why did you decide to pursue a doctoral program?

修士課程を始めた当初は、具体的に博士課程への進学を考えていたわけではありませんでしたが、全く選択肢に入っていなかったわけでもありません。NAISTでは、修士課程の学生が入学すると4月に研究室見学期間があり、最終的に大型連休明けに配属先が決まります。その見学期間に現在所属している研究室の河合教授と面談した際、博士課程で日本とフランス両方の博士号取得を目指す「ダブルディグリープログラム」があると伺いました。そのお話をきっかけに、博士課程への進学を決意しました。修士課程の研究よりも規模の大きな課題に挑戦できるかもしれないと感じたからです。また、グローバル化によって日本と世界の垣根が低くなりつつある今日、異なる文化的背景の中で研究に取り組むことは、将来必ず自分の強みになると考えました。
進学を決めた後の修士課程2年間は、研究テーマが修士から博士にかけて5年間取り組む壮大なものだったため、困難に直面することも多くありました。しかし、「博士課程進学をやめたい」と思ったことは一度もなく、これまで乗り越えてきた挑戦を何とか形にしたいという思いで研究を続けてきました。振り返ると、修士課程の2年間も現在も総じて研究を楽しんでいると思います。それはひとえに、研究室の教職員やメンバーの方々のおかげです。
Graniteの支援で役立っている・助かっていることを教えてください。Please share what has been helpful or beneficial through the support provided by Granite.
まずは生活支援です。生活費として支援をいただけることで、安心して研究に専念することができます。また、研究費の支援も大変ありがたいです。私の専門である有機合成は比較的コストの高い分野です。料理にたとえると、目標とする料理があり、その作り方を探る段階に相当します。どの材料を使い、どのように加熱するのかを一つひとつ実験して検討していくのですが、その際の材料費(正確には試薬費)が非常に高額になります。有機合成は製薬などに欠かせない重要な分野であるため、どうしてもコストは避けられません。そうした中で、「この条件を試してみたい」と思ったときに、Graniteの研究費のおかげで修士課程のときよりも挑戦しやすくなっているのは非常に助かっています。
金銭面以外では、Granite生向けのセミナーも大きな支えになっています。定期的にセミナーやイベントの案内をいただきますが、研究に限らずキャリアを考える機会を得られるのはとてもありがたいと感じています。たとえば先日は、南極地域探検隊として南極に行かれた事務職員の方や、青年海外協力隊としての経験を持つ職員の方によるセミナーがありました。普段なかなか聞けないお話で、とても興味深かったです。自分が描いているキャリア像とは異なる分野の体験談を聞けることは刺激になり、学びも多いため、できるだけ参加したいと考えています。一方で、私の研究分野は安全性の観点から実験中に実験室を離れにくいことがあります。そのような時には、Graniteセミナーのオンライン配信が非常に助かっています。
将来の目標、もしくはあなたが胸に秘めた野望があればぜひ教えてください。Please share your future goals or any ambitions you hold close to your heart.
まずは博士号を取得することが、現在の最大の目標です。その後については、博士課程まで進んだ経験を活かし、専門とする化学の分野で仕事をしたいと考えています。具体的には、企業での研究開発職を志望しています。
また、私はダブルディグリープログラムに在籍しているため、博士課程在学中にフランス語を習得し、さらに英語力も磨いていきたいという大きな目標もあります。こちらは趣味の側面もありますが、語学力を高めることで将来の可能性をさらに広げられると考えています。
さらに、私は自分を「文系と理系の狭間を生きる文系」だと思っています。(高校時代に一番好きだった科目は古典でした。)そのため、実験センスに秀でているわけでも、天才的な理数系の理解力を持っているわけでもありません。しかし、理数系を別のアプローチから理解してきたことは、私ならではの強みだと感じています。将来的には、科学を専門としない人に科学的なトピックを伝える「サイエンス・コミュニケーション」の分野にも関心があり、その領域に何らかの形で関わることも大きな野望のひとつです。
博士課程進学を考えている人へのメッセージをください。Please share a message for those considering pursuing a doctoral program.

博士後期課程に安易に進学すべきではない、ということはよく言われます。しかし私は、進学しないという選択も安易に決めるべきではないと考えています。結局、自分の人生に責任を持つのは自分自身です。どのような結論に至ったとしても、熟考の末に選んだものであれば、あとは自分の行動でそれを正解にしていくしかないと思います。
研究に関する知識や実験技術といったハードスキルを身につけることは言うまでもありませんが、文章を書く力などの汎用的なソフトスキルも博士課程では非常に重要です。そして、それは研究に限らず、どのような仕事にも必要な力だと思います。そのスキルを磨くためには、専門分野にとどまらず幅広い分野に関心を持ち、アンテナを張ることが大切です。私自身も本をさまざまに読むことが、有効なアプローチだと感じています。

